アマゾンは地球の気候を安定させる重要な役目を果たしているのに、私たちはそれを燃やしています。
ヨハン・ロックストローム
ポツダム気候影響研究所の所長(ドイツ) 2020年9月19日
アマゾンの熱帯雨林が燃えています。 主にブラジルとボリビアに於いて40,000件を超える火災が発生しており、そこでは政治を司る極右勢力から極左勢力までが、熱帯雨林に無秩序な混乱状態を引き起こしています。 事態は非常に深刻です。 地球上のすべての生態系は特別なものです。 しかし、アマゾンはその中でも特に際立って重要なのです。
世界中の陸地に住む植物、動物、昆虫の30%は、アマゾンの熱帯雨林に生息しています。 地球の陸上バイオマス(エネルギー源として利用される生物資源)の10分の1がここにあります。 無数の川や小川、世界を流れる淡水の5分の1がこの密集した熱帯雨林の中を流れ抜けています。
この熱帯雨林には約100万人の先住民が住んでいますが、水の供給や天候や経済の発展を通じて、ラテンアメリカやもっと遠くの国々に暮らすたくさんの人々の生活にも直接かかわる大きな影響力を持っています。 何故なら、アマゾンはこの星(地球)全体の環境や健康状態を調整する主要な生態系の1つだからです。 その理由は熱帯雨林に降る雨の30~40%がこの熱帯雨林自身によって生成されているとか、熱帯雨林から生成される蒸発散が雨となりサンパウロのような都市に飲料水を提供していると言う事だけではなく、 アメリカ大陸とアフリカ大陸の降雨システムにも関連するほど大きな地域に及ぶ水系統(その地域に雨を降らせる仕組み)の一部として重要な役割を果たしているからなのです。
熱帯雨林を破壊する事で、地球の環境を安定させている大事な要素の一部を破壊する事になります。 つまり、アマゾンの熱帯雨林はすべての人にかかわる問題なのです。 それは、大気、南極大陸、オゾン層、宇宙空間などに代表されるグローバルコモンズの1つです。 私たちがアマゾンの熱帯雨林に関する議論をする際、その入口は常に、国境がこの生態系を貫いている9か国だけの問題であるという考え方が基本になっています。
でも、もしこの考え方を変えるとしたらどうでしょう? ブラジルのボルソナロ大統領は、いったいどんな権利があってアメリカやドイツや中国の産業と農業の経済的基盤の一部を壊す事ができるのでしょうか?(彼にそんな権利はありません) アマゾンの熱帯雨林が破壊されれば、それは大気中への二酸化炭素排出を激増させるきっかけとなり、それが地球温暖化を加速し、その結果私たち全員がその影響を被る事になってしまいます。 アマゾン熱帯雨林における水循環プロセスが崩壊すると、地政学的に不安定になり(地理的な環境の変化によって政治的に不安定になり)、ラテンアメリカ諸国の経済成長の低下を引き起こし、それによって難民の流出やスウェーデン、欧州連合などの輸出産業にまで悪影響を及ぼす可能性があります。 そんな危険を冒す価値はあるでしょうか? そんなリスクを受け入れられますか?
30年前であれば、この事実 - 世界の主要な生態系であるアマゾンの熱帯雨林や、温帯林、そして世界中の泥炭地などは、私たち人類が共に協力して保護していくべきグローバルコモンズであるという事実 - を無視して知らないふりをする事も出来たかも知れません。 その頃の地球は生物学的に無傷であり、それ故に回復力があり、二酸化炭素排出量も少量に限られていたため、国が誤った管理をしたとしても、地球はそれに耐える事ができました。 しかし、今はもうそんな状況ではありません。
次に述べることを考えてみてください。 地球温暖化による気温の上昇レベルは今1.1℃です。 1.5°Cを超えてはならず、もちろん2°Cを超えるのはもってのほかです。 しかし、このままの状態が続けば3°または4°Cの上昇レベルで温暖化に向けて突き進んでしまいます。 出来る事なら、今年から世界の排出量を減少させ、2030年までに半分に削減し、2040年までにはその又半分に削減させて、2050年までにはゼロにする必要があります。 これが「炭素法」と呼ばれる物です;科学的情報に基づき、10年ごとに排出量を半分に削減していくのです。
しかし、これがうまく機能する為には地球に変異が起こらず、今のままの状態である必要があります。 つまり、すべての生態系とすべての氷床、および海洋におけるエネルギーの貯蔵状態と海流は無傷のままでなければなりません。 もしアマゾンの熱帯雨林を失えば、それだけでさらに1°Cの温暖化が進む可能性があります。 もし地球上の温帯の泥炭地をすべて失えば、さらに1°Cの温暖化につながる可能性もあります。
ご承知のように、自然は私たちの友達であるだけではありません。 自然は強いですが、無敵ではありません。 そして、地球に住む私たちの未来は彼女(自然)の手の中にあります。 しかし、この時点で多分あなたが問いかけたいと思っているのは、私たちがアマゾン全体の熱帯雨林を破壊してしまう-そんな危険性が本当にあるのかと言う事でしょう。
昨年9月、国連気候サミットの期間中、政治家や研究者やジャーナリストでいっぱいのニューヨークの国連本部にある小さな会議室で、私はブラジルを代表する気候科学者のカルロス・ノブレ氏と世界的に有名な生態学者のトム・ラブジョイ氏の隣に座りました。 カルロス・ノブレはこのように話し始めました:「アマゾンの熱帯雨林は今まさにティッピングポイント(熱帯雨林の存続が不可能となる限界値/転換点)に近づいた状態にある」と。
私は非常に不安になりました。 私がとても尊敬している親しい同僚であるカルロスは、非常に慎重な立場の学者です。 彼がこの結論に達したという事は、本当に深刻な状況にあるに違いありません。
何年か前、カルロス・ノブレとトム・ラブジョイはアマゾンの熱帯雨林に関する研究を発表しましたが、その中で特に強調していた事があります。 アマゾン熱帯雨林は、森林破壊と地球温暖化の相互作用によって、熱帯雨林から逆転してサバンナへとなってしまう危険性がより一層増し、 山火事や干ばつや大災害によってそれが加速してしまう可能性がある、という点です。
彼らの指摘によれば、地球温暖化と山火事がこの森林にさらなる打撃を与えるなら -かつて多くの研究者たちは40%くらいの森林破壊までは対処できると考えていましたが- 今では20%から25%の森林破壊にしか対処できないかもしれないと述べています。 推定では今のアマゾンの森林破壊は17%に達しています。 しかし、私としては既に20%近くと言う嫌な事態になっていると強く感じています。
そのタイミングこそ、フランスのエマニュエル・マクロン大統領がボルソナロ大統領を激しく非難した時です。 私はマクロンの姿勢は正しかったと思います。 ボルソナロにそんな事をする -生態系全体を不安定な状態にするようなやり方でアマゾンの熱帯雨林を開拓する- 権利はありません。 それはブラジルだけの問題ではありません。 それは私たち全員に関係する重要問題です。 月が地球の潮汐を起こすのと同様に、アマゾンの熱帯雨林は水の流れと地球の気候をコントロールしています。 つまり、この熱帯雨林はこの惑星(地球)が健康な状態でいるためには必要不可欠な臓器なのです。
これが私たちの今現在の状況です。
The Science Show
Radio National (Australia)